梅干の物語
先日、以前からお世話になっている知り合いから電話があった。
彼女には、小学6年の女の子の孫がおり、コロナ自粛の時期には、ずっと泊まり込み、朝から晩まで孫との生活に疲労困憊だったと前回の電話で聞いたばかりだった。
あれから数ヶ月、今度は電話では語れない話があるとの事。
そんな事は、めったにないので、仕事を済ませてから、ウチに晩ご飯を食べに来る事になった。
その話と言うのは、確かに衝撃だった。
彼女の孫の母にあたる、長男の嫁が先月45歳の若さで亡くなったとのことだった。
肺がんを患って3年。
ここ1年は緩和ケアで自宅に暮らし、毎日訪問看護を受けていたらしい。
国家公務員として、多忙な省庁に勤務。
私は写真でしか会っていないが、美人でキャリア組。
誰もがうらやむ女性だったはずだ。
その夫も同じ省庁に勤務し、最近は妻の看護のため仕事をセーブし、家事の全てと育児をこなしていたと言う。
コロナ自粛の時には、生きることへの諦めの空気が漂い、食事も喉を通らない状態だったと。
だが、
「あの、お宅からいただいた、手作りの梅干だけは、毎食食べていたと言うのです。」
「大事に少しずつお粥に混ぜて、それだけは食べたいと。」
涙が流れました。
「他のどんなに高価な梅干よりも、やはりお宅の梅干が最後には大事でした」
亡くなられたのは、無念ですが、今年も丁寧に梅干を仕込む事を誓ったのでした。
そして、いつか、残されたお嬢さんに、梅干作りを一緒にやりましょうと、提案しました。